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真実を語るということ 「「哲学実技」のすすめ」中島義道

6人の志願者を相手にN教授の信じるところの「哲学」を私塾として伝授する。
「哲学」ー自分の言葉で真実を語る―とは?
実際の受講者の人格を切り貼り合成して各登場人物は作られている。
事実に基づくフィクションと言える設定である。
自分のエゴを直視すること、きれいごとを語らないこと、自分可愛さを発見して捨てること。
これらのレッスンを通して「からだ」で語るということを身につけていく。

他人を傷つけることを恐れるということは「自分がそれによって傷つきたくない」と思っているということである。
「他人を傷つけることで大いに自分が傷つくことを引き受けよ」
このメッセージは人を傷つけるおそれがあると思うと表現が迂回していく自分にとって耳に痛いこの本一番の箴言でした。
一方で、高校生のときに人の欠点を容赦なく暴く言葉のテロリストがクラスにいて、
「俺はお前らのためを思って毒を吐くんだ」と公言していたのですが、
彼はもう中学生の時にこの壁を乗り越えていたんだなと思うと
遅ればせながら今のうちに気付くことができてよかったなんて感じたりしました。

またこの本は終わり方も特徴的でした。
参加も不参加も受講生に任せるという方針の塾は生徒がだんだん減っていって
最後は副題「――そして誰もいなくなった・・・」の通りの結末を迎える。
このことは本の構造として、積み上げていく閉じた本と見せかけて
実は積み上げてからそれを崩して読者に投げる開かれた本であることを意味している。
この工夫は読者に思考を強いるという意味でも主題にマッチしているし
再読するときにより深い境地に到達できるので一冊の価値を非常に高めている。


「哲学実技」のすすめ そして誰もいなくなった・・・・・・。 (角川oneテーマ21)


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