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悲哀の仕事 『対象喪失』小此木啓吾

対象喪失 悲しむということ (中公新書)


この本は心理学の真面目な本なのですが、読んでいると悲しくなったり苦しくなったりと
感情に訴えかけてくるものがあって珍しいと思ったので、読んだのは7月末なのですが
こうして9月半ばに記事にすることにしました。
(ふせんを生やしたまま一ヶ月も放置していたとは……)

対象喪失とは次の3種類の喪失のことをいう。

1.愛情・依存の対象の死や別離
2.住み慣れた環境や地位、役割、故郷などからの別れ
3.自分の誇りや理想、所有物の意味を持つような対象の喪失

それぞれ家族の死・失恋、引っ越し・進学、アイデンティティーの喪失などが当てはまる。
これらの対象喪失に対して、人間は急性な情緒危機と持続的な悲哀を覚える。
愛と憎しみのアンビバレンスの再体験を経て対象喪失に対する断念と受容の心境に達することを「悲哀の仕事」という。
この「悲哀の仕事」(特に死別によるものを「喪の仕事」という)がこの本のテーマです。

フロイトの父に対する喪の仕事を題材にしているのですが、
生前に「死んでしまえばいいのに」と深層心理で思っていたことに気づくところや、
対象喪失が自分の喪失を予期させるので悲しみや恐怖の感情を強くさせることなど
説明になるほどと思うけれど、他人事でなく自分も悲しみや辛さを共感しました。

私は読みながら比較的最近あった自分の喪失体験を反芻しながら読みました。
喪失体験から時間もそこそこたっていたので自分の中で整理がついてはいました。
でも読む前はいない対象が心に引っかかる少し前までの自分の未練を恥じる気持ちがあったけれど、
読んでいるうちに、それでもいいんだなとそんな(読みながら悲しみや苦しみを思い出してしまう)自分を受け入れられるようになりました。
読みながら自分が変わっていく、そんな本です。


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