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1月の面白かった本

ブログをほったらかしていたひだんです。
久々に帰ってまいりました。

今回は1月に読んで面白かった本ということで寸評を上げていきたいと思います。

第3位 アンディ・ウィアー『火星の人』

一行目から火星にいるし、最後まで地球には帰ってこないというハードSF。
しかし断然読みやすい。

事故により火星に置いていかれてしまったワトニー。
目的はただ一つ「生き延びて帰還すること」
しかしながらワトニーの火星生活は挑戦と失敗の連続で波乱万丈である。
成功すれば調子に乗り、失敗してもユーモア精神で挫けない。
底抜けの明るさが強く印象に残る一冊でした。

映画『オデッセイ』の原作で最近注目されていて
自分はそういうことは知らずにミーハー精神で読んでみたところ大当たりだった。
航海日誌のログ形式の記述なのでワトニーのユーモアが自然とあふれるようになっているが
映画では上手く表現できるか少し不安ではある。
一方で自分の想像の及ばない描写がいくつかあったので、
どうなっているのか映画で見れることにとても期待している。

第2位 今村夏子『こちらあみ子』

中編が3つ。ただし最後の1編は短め。

続きが知りたいかと聞かれれば、どうしても知りたいというほどではないと答えるだろう。
続きを知れば楽しくなるかと聞かれても、そんなに楽しくもないと答えるだろう。
続きを、結末を知られずにはいられない。途中でやめられない。
だから読んだ。そういう印象さえある。

怖いもの見たさとはまた少し違う。
怖いわけではないし、そんなに見たくはない。
ただ不安が広がるだけ。
ナイーブに少々の憧れを伴って「小説」という言葉を想起するときに
自分はこの本のアウラを思い浮かべているかもしれない。
とても力のある文章。

第1位 森谷明子『七姫幻想』

七夕の織姫の七つの異称にまつわる七人の姫の物語。
連作短編集というほどつなげることを目的としていない。
しかし彼女らはそれまでの姫の影響をどこかしら受けている。
その微妙さもファンタジックな雰囲気と相まってなかなかいい。

この本の売りの一つは平安以前の時代を味わえること。
神代から順に最後は江戸時代まで遡ってくるものの、古い時代の話が多い。
平安時代の文化が上手くいかされた小説は珍しくて貴重だと思う。
自分のツボに来たのは最初の短編「ささがにの泉」。
神話の世界を舞台に幻想的な空気感が漂う作品で、
この1編が気に入ったからの1位と言っても過言ではない。

謎と恋を核に読者の興味を引き寄せ、和歌や機織り、泉などの共通のモチーフを
使っているところなど短編集としての統一感も優れている。
7月に読めば格別だろう。

番外編 宮脇俊三『線路のない時刻表(全線開通版)』

上記の三冊は自信を持って人に進められる本だが、
この本は良かったんだけど何がいいのか説明できないし
他の人が自分と同じように感じるかどうかも不安なので番外編にしている。

著者はガチテツ。
時代は1950年代半ば、地域格差を減らすためと言って地方に鉄道を作っていた頃だった。
鉄道公団の赤字を減らすために赤字(見込み)の路線は
完成を目前に放棄されることとなってしまった。
新路線の乗車を待ち侘びる著者が実地に出かけて線路沿いを走り、
工事の作業員や地元の村長の話を聞いたりしつつ完成後のダイヤを想像するというエッセイ。

熱烈な鉄道愛ほとばしるというわけではない。
ルポルタージュのため記録者に徹するというわけでもない。
紀行文を書くつもりでも毛頭なかっただろう。
よく分からないけれどなかなか手の止まらない文章で
最後にようやくできた列車に乗った感想を聞いてよかったなあと微笑ましく思う。
そんなことを繰り返しているうちに一冊読まされてしまったという感じ。

本が良いかどうかを評価する時に、
自分がその本を楽しめる準備ができているかということが実はとても重要だ。
この本は1月に読んだ中で最も自分にフィットしたということだと思う。

目次だけ見ようかと思っていたら20ページも読んでいた。
そんな本との出会いがあなたにもありますように。


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