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通読する読書ブログ

通読するべき良書を紹介します

寝る前に本を読む人には勧められません 「ジェノサイド」高野和明

ジェノサイド 上 (角川文庫)

ジェノサイド 下 (角川文庫)

はじめにこの本を読むときの注意点が3つあります。
第一に、上下巻両方を揃えてから読み始めるということです。
次に、翌朝忙しい人は寝る前に読んではいけません。
最後に、読み終えた後にぼうっとするための時間を30分ほど用意してください。

ここまで書けばこれ以上は蛇足ですが、この本は一気読みを強制されるタイプの本です。
読み始めたらこの本に吸い取られてしまって抜け出すのが困難な状況になることは必至でしょう。
スネイプの憂いの篩に飛び込んだハリー・ポッターのように。

ハイズマン・レポート。
それは人類滅亡の可能性をまとめたシナリオ群である。
その第五の可能性を巡る物語。
傭兵によるコンゴでの秘密作戦・父を亡くした東京の薬学部の大学院生・ホワイトハウスでの会議という一見バラバラな3つの舞台を交互に描いて話は展開していく。

人類の存亡を懸けるというスケールの壮大さと隙のない理論の緻密さが同居するという設計図の時点で十分にクオリティの高い作品である。
それに加えて、
アフリカでの追っ手から逃げるアクションシーンにも
新薬の開発への焦りにも
思い通りにならなくて苛立つホワイトハウスの様子も
ひとつひとつの情景に、読む手を止めさせない緊迫感が宿っている。
作品を貫くこの緊迫感に読者は心地よく酔いしれることになる。

読み終わってからも本に囚われたまま現実に戻って来れなくなりそうな不安さえ覚える
そんな強烈な読書体験ができる強力な一冊です。
ぜひ注意事項をも守ってお楽しみください。

最後に既に読んだ人向けの文章を。
ネタバレを含みますので読んでない人は続きを読まないでください。



この本を読み終えて、理性が戻ってくると1つ気になる点がありました。
それはアフリカでの大逃走劇に大して大学院生の新薬開発の話がスケールの壮大さで全然釣り合ってないということです。
新薬開発は確かに10万人の命を救います。
しかし進化した人類の救出は新たな種もしくは既存の人類の将来の滅亡の危険性に関わる話なのです。

ゆえにアフリカから来た彼らと薬開発組が対等な感じのラストには疑問が残ります。
究極的に言えばこの小説における彼らの必然性は何なのか?と。
まず一つは長女の存在のカモフラージュとしてでしょう。
日本に逃げるというプランや協力者の拠り所を偽装できます。
もう一つはこの小説のサブテーマに関わる要素としてだと思いました。

それは人間の善も悪も書きたいというテーマです。
アフリカの戦地で、バーンズ大統領で、散々人間という種の残虐さ・矮小さをあられもなく表現しました。
それの対として、人間という種の希望として彼らは描かれる必要があったのではないでしょうか。

後はミックが選ばれた理由って何なのかなって所は興奮しすぎてて読み落とした可能性が高そうです。
ご存知の方はぜひコメント欄でご一報ください。


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