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全ては自分のため 『進化倫理学入門』内藤淳

進化倫理学入門 (光文社新書)


1.本書の狙い

この本の狙いは道徳の基準が利害損得だということを論じることである。
ここでいう利害損得とは何か?
それは進化論的な遺伝子の己性におけるである。

2.人間の基本性質:利己性

人間は快・不快に基づいて行動する。
つまり快のより期待される選択肢を積極的に選び、不快の予想される選択肢は避けていく。
そしてこの快・不快の基準は生存・繁殖における利益である。

生存・繁殖における利益→→→→快→→→→選ぶ
生存・繁殖における不利益→→→不快→→→選ばない

上の図式において一番左から真ん中への矢印は個体において無意識のうちに起こっている。
つまり、我々は自然と利己的な行動を取る。

3.利他行動の本音:利己性

3.0利他行動の分類

利他行動の相手により4パターンに分類できる
1.血縁者への利他行動
2.特別な異性への利他行動
3.一定の人間関係のある人への利他行動
4.不特定の人への利他行動

3.1血縁者への利他行動

これは進化論における議論をそのまま援用して
血を分けた者には自分と同じ遺伝子がそれなりの割合で含まれていることから説明している。

3.2配偶者への利他行動

これは自分の遺伝子を残すために行われる。
しかし、個体レベルではその目的が意識されることなく、愛情によってその行動を取る。
つまり、愛情は自然と自分の利益を導く装置なのだ。

※この装置は遺伝子が設計したものである。
ゆえに子供のいるいないに関係なく愛情システムは発動する。

3.3友人、同僚、近所の人などへの利他行動

この行動の理由はロバート・トリヴァース「互恵的利他行動の理論」で説明される。
つまり、「相手のためになる行動」を交換することで、何もしないよりも得になる。
人間は牙も翼もそれどころか鋭い爪すら持たない非力な動物なので、
資源獲得には他人との互恵関係が必須だった。

対人関係において生じる感情(「好き」「嫌い」など)はこの観点から説明できる。
好き:「お返し」してくれる(くれそう)な人に抱く感情
嫌い:「お返し」してくれなさそうな人に抱く感情
これらの感情は互恵関係を築くまたは築かないことで利益を確保し損失を回避するための
進化の過程で仕込まれた装置になっている。

3.4見知らぬ人への利他行動

電車でお年寄りに席を譲ることなどがこのカテゴリーに該当する。
この場合3.3と違って「お返し」を受け取ることができない。

しかし、この場合はよい評判らしいという評判を得るという利益を得ている。
誰にでも利他行動するというアピールになっているということだ。
良い評判を得られれば、新たな互恵関係が結びやすくなる。

このカテゴリー行動を動機づけるのは「良心」や「思いやり」である。
それらのおかげで誰も見ていないところでも利他行動を取ることができる。
※「人が見ている時だけいい奴」は必ず嫌われるので、「いつでもいい奴」がベスト

4.道徳とは何か

感情という装置により結果的に自分のためになる利他行動が取れるというのなら
道徳は何のためにあるのだろうかという疑問が浮かぶかもしれない。
しかし、実際に道徳は必要なのだ。

今まで見てきたように、人は無意識のうちに利己的な行動(一見利他的に見えるものを含めて)
をとれる装置が備わっている。
しかしその利己性は意識に上らないため、目の前の損得に惑わされることがある。
道徳は長期的利益を短期的利益から守るための教訓になっていて
そのような事態が起こることを防ぐ効果がある。

このような利益獲得のセオリーが他者の利益にもなる場合、
道徳が個人の行動指針に留まらず社会的な規範として成立する。

この道徳を守らない者は互恵関係を結ぶに値しない人物というレッテルを貼られ
その人は多大な損失を被ることになる
従って道徳に従って善をなし、悪を退けることは自分の利益に結びつく。
※刑罰は意識に上らない不利益を可視化することで悪の抑止力となる。

5.おわりに

進化論も倫理も比較的ホームなのに読むのに思ったより苦労しました。
章の最初にその章を象徴するクイズがあり、最後にはまとめが付いているにもかかわらず。
その割に書いてある内容はそこそこ予想通りで、不可解な現象でした。

3.4見知らぬ人への利他行動はちょっと論拠が弱そうに感じます。
それと最終章はよく分からなかったので、この記事ではカットしました。
(個人的にはここで終わっているのが最善だと思う。)

利己的な遺伝子という概念は自分の好きな思考の枠組みで面白いし応用範囲が広いです。
もし、興味を覚えた人は次の名著をぜひ読んでみてください。

利己的な遺伝子 <増補新装版>


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