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1冊で3人の文豪の傑作が読める 『音』幸田文他

(005)音 (百年文庫)


先週末に風邪を引いてしまい、ブログのほうがおろそかになってしまいました。
またこれからマイペースに続けていこうと思います。

今回取り上げるのはポプラ社の百年文庫というブランドの『音』です。
この百年文庫(サイズは新書版です)は三人の文豪のアンソロジー100冊を集めたものです。
100冊あるので毎月1冊ずつ読み進めればなんと8年以上楽しめますね!
それぞれ題名が漢字一文字で表されていたり、フォントもやや大きめで読みやすかったり
随所に工夫の感じられるレーベルになっています。

まあ営業はここらでやめておきます。
というのは自分もこれが初めてで語るほど詳しくないからです。

それでは本の内容に入ります。
「音」がテーマなので、あなたも5秒くらい耳を澄ましてみてください。



耳を澄ます時に目を瞑っていませんでしたか?
音・聴覚にフォーカスするとき、視覚に頼りがちな普段とは違う世界が立ち現れます。

1編目の幸田文『台所のおと』はまさにそのような音が主役の世界です。
病で床に伏せる料理店の主人だった夫と夫の余命を一人だけ知っている妻。
妻が台所で立てる音を介して二人はつながっているのです。
情景も心理も音の中に表現する、本当に見事な描写です。

2編目の川口松太郎『深川の鈴』は前の作品が完璧にタイトルに沿っていたので
変化球気味でちょっと「あれ?」と思ってしまいました。
小説としてどうこうというわけではなく、あんまり「音」じゃないなと。

3編目の高浜虚子『斑鳩物語』も「音」を印象的に使っている作品です。
ただし写生の手法を散文にも応用しているため、視覚的な表現も多く使われています。
自分としてはそういう情景描写がいいなと思ったポイントでした。

そういうわけで、幸田文さんの『台所のおと』はまさに「音」の傑作でした。
しかし他の作品もやはり文豪の傑作なんだなというのは読んでいると分かります。
文豪というと、自分の場合身構えてしまうようなところがありますが、
どれも小説の世界がすぅーっと沁みこんでくるような快く優しい読み心地でした。
こういう感覚は何かと騒がしく刺激的な現代の大衆小説からは得難いものだと思います。
気軽に文豪の傑作を楽しめる、そんな一冊でした。


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